ポケカは Robinhood に「上場」しない — それでも《ポケカ=金融資産》は、もう始まっている
SNSで広がった「ポケカが Robinhood に進出」は、二つの別々の出来事が混ざったものです。では実際には何が動いているのか。そして日本のカードは、その仕組みのどこに置かれているのか。出典を全部示しながら整理します。
この記事で分かること
- 「Robinhood がポケカに進出」が事実ではないこと、そして何と何が混ざったのか
- その Robinhood Chain で実際に起きていること(9月4日の停止と、企業からの抗議)
- 本当に動いている「鑑定カードのトークン化」の中身と、規模
- 日本の在庫が、すでにその仕組みに接続されはじめていること
- そして本題 —「トークン化された」ことは、そのカードが値上がりする理由になるのか
01 / FACT CHECKまず、事実の確認から
2026年9月、日本語のSNS上で「ポケモンカードが Robinhood に進出へ」という趣旨の投稿が広がりました。米国の証券取引アプリ Robinhood でポケカが株式のように売買される、という話です。
結論から書きます。本稿執筆時点(2026年9月13日)で、Robinhood はポケモンカードを取り扱っていません。
混同の材料になったと思われるものが、二つあります。
ひとつ目は、Robinhood 自身のトークン化です。 Robinhood は2026年7月1日に自社ブロックチェーン「Robinhood Chain」をメインネットで立ち上げ、24時間取引できるトークナイズド株式などを提供しはじめました。ただしこれは株式の話で、カードは対象に入っていません。
ふたつ目は、"Robinhood for Pokémon cards" を名乗る別会社です。 ニューヨークの Misprint(Y Combinator 2025年冬バッチ)が、この表現を自社のキャッチコピーとして使っています。同社がやろうとしているのは、カードの売り板・買い板(bid/ask)を常時表示し、過去の取引データから適正値を出すこと。いわば「不透明な値付け」を潰しにいくマーケットであり、Robinhood 本体とは資本関係も提携関係もありません。
つまり「Robinhood がポケカに来る」という話は、現時点では事実ではありません。ここは押さえておいてください。
02 / WHAT ROBINHOOD CHAIN ACTUALLY ISその Robinhood Chain で、実際に起きていること
噂の片方の材料になった Robinhood Chain 側の状況も、見ておく価値があります。混同が危ないのは「載っていないから」だけではないからです。
Robinhood Chain は2026年7月1日にメインネットで公開され、24時間で約8億7,800万ドルのDEX出来高を記録しました。8月下旬までの累計DEX出来高は約250億ドル。株トークンの保有者は約2か月で約86万2,800人に達し、直近30日のDEX出来高は64億ドルと報じられています。数字だけ見れば、立ち上がりは非常に強い。
ただし、中身はこうです。
- 出来高はローンチ直後に極端に偏っており、その後は均されていない。主役は当初想定されていた現物裏付け資産ではなく、CASHCAT のようなミームコインでした
- 利用者からの苦情でいちばん多いのは障害ではなく、買った直後に消えるスキャムトークンです
- 2026年9月4日、ブロック生成が少なくとも14分間停止しました。原因は公表されていません
- そして企業側からの抗議が出ています。AMC Entertainment の CEO は、自社株のトークンについて米国の証券法に登録されていないと述べ、取扱いの即時停止を求めました。OpenAI も以前に、当該トークンは自社の株式ではなく、Robinhood と提携もしていないと表明しています
この最後の点が、日本のコレクターにとって一番実用的な教訓です。Robinhood Chain 上に「ある企業の名前を冠したトークン」が現れても、その企業が承認したとは限らない。 AMC と OpenAI が、まさにそれを言っています。
同じ時期、Robinhood Chain 上でポケモン関連を名乗るトークン($POKE/PokePaired)が立ち上がり、24時間で約79%下落し、公式を名乗っていたアカウントが削除された、という投稿がSNS上で流れています。当編集部は一次情報を確認できていません。取引所の公表資料も、報道各社の記事も見つかっていません。したがって本稿では事実として扱いません。
ただし、仮にそれが本当だったとしても話の筋は変わりません。上に書いたとおり、そのチェーン上のトークンは発行者が勝手に名前を付けられます。「ポケモン」の名が付いたトークンは、株式会社ポケモンとも任天堂とも、そして皆さんが持っている紙のカードとも、何の関係もない可能性が高い。
03 / WHAT IS REALLY HAPPENINGでは、何が本当に起きているのか
Robinhood の話が誤りだったからといって、「ポケカの金融化」そのものが幻だったわけではありません。むしろ、SNSの噂よりも現実のほうが先に進んでいます。
いま実際に動いているのは、鑑定済みカードのトークン化です。仕組みは、意外なほど地味です。
- PSA などで鑑定されたカードを、事業者が専用の保管庫(ヴォールト)に預かる
- その1枚に対して、1対1で対応するデジタルトークンを発行する
- 以後、カードは動かさず、トークンだけがブロックチェーン上で売買される
- 現物が欲しくなった所有者は、トークンを償還(リディーム)して実物を受け取る
要するに、「カードを送らずに、所有権だけを動かす」仕組みです。
なぜこれが求められたのか。CoinDesk は市場側の言い分をこうまとめています — この市場には中央の登録簿も清算機関も存在したことがない。鑑定には数週間から数か月かかり、売買のたびに高い手数料がかかり、最後は郵便で現物が動く。だから「即時決済」と「24時間取引」を持ち込みたい、というわけです。
主なプレイヤー
| 事業者 | 基盤 | 特徴 |
|---|---|---|
| Courtyard | Polygon | 2021年創業。シリーズAで3,000万ドル調達。直近30日で約1億3,900万ドルの取引高 |
| Collector Crypt | Solana | 2025年8月ローンチ。この分野の先行者。直近30日で約7,780万ドル |
| Fanatics Collect | — | 2026年4月に "phygital"(現物裏付けトークン)を開始。暗号ウォレット不要で買えるのが特徴 |
| Deadstock(ATH Labs) | Arbitrum | クローズドベータ。後述する日本との提携が最大の特徴 |
金額の桁を掴んでおきましょう。ポケカ市場そのものの規模は、推計で100億〜150億ドル(Kovoy VC が2024年に約130億ドル、Mordor Intelligence が2026年に約150億ドル、TCGCharts は鑑定カードの時価総額を約108億ドルと試算)。eBay 単体でも2025年のトレーディングカード売上は26.2億ドル(うちTCG・ノンスポーツが8.37億ドル)でした。
そして2026年2月には、PSA10 の「ポケモンイラストレーター ピカチュウ」が 1,650万ドル(バイヤーズプレミアム込み)で落札され、トレーディングカードの史上最高額を更新しています。
04 / JAPAN日本は「見ている側」ではなく、もう「組み込まれている側」
ここが、日本のコレクターにとって一番重要な部分です。
2026年6月12日、Arbitrum 上でトークン化を手がける Deadstock(ATH Labs)が、日本の JTCC(Japan Trading Card Center)と独占提携を結んだと発表しました。対象は「PSA10 の Grails」— つまり最上位の鑑定品です。
CoinDesk の取材によれば、ATH Labs の共同創業者は JTCC をアジア最大の仕入れ経路だと表現しています。JTCC は日本でオリパ(ミステリーパック)の大手オンラインマーケットを運営しており、同社が公表した数字として、2024年12月〜2025年11月で純利益 約24億円、総資産 約69億円が報じられています。
何が起きるかというと、こういうことです。
日本で流通していた高額な鑑定カードが、日本の市場に出回る前に、海外のトークン板に載る経路ができつつある。
これまで海外勢は、欧米のディーラー網から玉を集めるしかありませんでした。そこに「日本から直接引く」経路が一本通った。日本のコレクターにとっては、自分が買おうとしていた玉の行き先が、静かに変わりはじめているということです。
05 / THE REAL QUESTIONでは、「トークン化されたカード」は値上がりするのか
ここが本題です。そして、多くの記事が曖昧にして通り過ぎるところでもあります。
先に結論を書きます。トークン化それ自体は、そのカードが値上がりする理由になりません。
トークン化が変えるもの
- ① 流動性 ― 売りたいときに買い手が見つかる確率が上がります。24時間、世界中の板に晒されるからです。これは本当に効きます
- ② 決済速度と取引コスト ― 現物の郵送・保険・鑑定待ちが、売買のたびには発生しなくなります。回転が速くなる
- ③ 価格の可視化 ― 板があるということは、気配値が公開されるということです。「相場はだいたいこのくらい」ではなく、「いま、この値段で買える/売れる」が見える
トークン化が変えないもの
- ① 現物の需給 ― トークンの枚数は、ヴォールトにあるカードの枚数を超えません。1対1だからです。供給は増えも減りもしない
- ② そのカードが欲しい人の数 ― 板ができても、欲しがる人が増えるわけではありません。増えるのは触れる人の数であって、欲しい人の割合ではない
- ③ 鑑定個体数(POP) ― PSA10 が世界に何枚あるか。この数字は、トークン化とは一切関係なく動きます
つまりトークン化は、値段を上げる装置ではなく、値段を「速く・正確に」映す装置です。
これは投資家にとって、必ずしも朗報ではありません。速く正確に映る市場では、割安も割高も、これまでより早く消えます。「地方の店に安く残っていた」で取れていた差は、板ができれば取れなくなる。流動性が上がるということは、そういうことでもあります。
06 / SCARCITY「N枚しかない」に、いくら払っていいのか
ここで、この市場でいちばん危険な言い換えについて書いておきます。
希少性は、価値ではありません。
「PSA10 が世界に37枚しかない」と聞けば、誰でも希少だと感じます。それは正しい。しかしその希少さが価格に反映されているかどうかは、まったく別の話です。37枚しかなくても、欲しい人が20人しかいなければ、値段はつきません。逆に、1万枚あっても10万人が欲しければ高騰します。
実際、データはそれを示しています。BitPinas が集計した2021年から2026年の5年間のリターンでは、未開封のブースターBOXが中央値で +238.0% と伸びた一方、単カードは中央値 +38.3% にとどまりました。同期間の S&P 500 は +80.9%。つまり「1枚モノの単カード」は、指数にすら負けている。
「レアな1枚を持つ」ことと「資産として増える」ことは、この5年間、別のものでした。希少性の話に酔わないでください。
では、何を見るべきなのか
私たちは、次の3つだと考えています。
- ① POP(鑑定個体数)が、いま何枚で、どう増えているか
PSA10 の枚数は固定ではありません。相場が上がれば提出が増え、枚数は増えます。「37枚しかない」が来年も37枚である保証はどこにもない。枚数の水準ではなく、増加の速度を見るべきです - ② 日本と海外で、同じカードがいくらで売られているか
トークン板は米ドル建ての世界です。日本の実勢との差は、為替と手数料を差し引いてなお残るのか。残るなら、それはまだ埋まっていない差です - ③ 板の値と、現物の値が、どれだけ離れているか
トークン板の気配値は、ヴォールトの中の1枚を指しています。その同じ型番の現物が、日本の店頭でいくらで売られているか。この2つの数字を並べられる人は、まだほとんどいません
SAYA Terminal は、いま上の3つを測るためのデータを整備しています。ただし本稿には、当サイトの自社計測値は一つも含まれていません。記載した数字はすべて、末尾の出典に挙げた各社の公表値をそのまま引用したものです。
理由は単純で、私たちの手元の数字が、まだ公開に堪える精度に達していないからです。検証の途中にある数字を「参考値」として出すことはしません。次稿以降、上記①②③について当サイトの計測値を出せる状態になった時点で、その回に数字を載せます。
07 / SUMMARYまとめ
- 「ポケカが Robinhood に進出」は、現時点では事実ではない。Robinhood Chain はトークナイズド株であり、"Robinhood for Pokémon cards" を名乗るのは Misprint という別会社
- その Robinhood Chain は、9月4日に14分の停止を起こし、AMC・OpenAI から「勝手に名前を使われた」という趣旨の抗議を受けている。チェーン上のトークン名は、権利者の承認を意味しない
- ただし鑑定カードのトークン化そのものは、すでに月間で数千万〜1億ドル規模で動いている
- そして日本の在庫は、すでにその経路に接続されはじめている(Deadstock × JTCC、2026年6月)
- トークン化は値段を上げる装置ではなく、値段を速く正確に映す装置。割安も割高も、これまでより早く消える
- 希少性は価値ではない。5年間のリターンで、単カードは指数に負けている
「ポケカ=コレクション」から「ポケカ=金融資産」へ、という言い方は、半分正しくて半分雑です。正確には、「値段が見えるようになった」というだけのこと。見えるようになった市場で勝つのは、見えている数字を他人より正しく読める人です。
SAYA Terminal は、そのための数字を並べます。
08 / SOURCES出典
- CoinDesk「Pokémon cards are becoming a multibillion dollar asset class. Now crypto wants a piece」(2026-08-11)
https://www.coindesk.com/business/2026/08/11/pokemon-cards-are-becoming-multibillion-dollar-market-crypto-wants-to-fix-how-they-trade - Deadstock「Deadstock × JTCC: Exclusive Tokenization Partnership」(2026-06-12)
https://deadstock.gg/blog/deadstock-jtcc-partnership - BitPinas「Crypto Platforms Tokenize Pokemon Cards as Sealed Products Outperform S&P 500 and BTC」
https://bitpinas.com/feature/pokemon-tokenize/ - CoinMarketCap Academy「Tokenized Pokemon Cards Beat Bitcoin in 2026」
https://coinmarketcap.com/academy/article/tokenization-pokemon-cards-nfts-rwas - The Block「Robinhood Chain goes live on mainnet alongside 24/7 tokenized stocks…」(2026-07-01)
https://www.theblock.co/news/business/2026-07-01-robinhood-chain-goes-live-mainnet-alongside-24-7-tokenized-stocks-lighter-perps-planned-crypto-agentic-trading-406918 - CryptoSlate「A major outage and corporate backlash hit Robinhood Chain at the peak of its growth」(2026-09)
https://cryptoslate.com/a-major-outage-and-corporate-backlash-hit-robinhood-chain-at-the-peak-of-its-growth/ - Crypto Briefing「Robinhood's crypto chain stumbles as memecoin mania fades」
https://cryptobriefing.com/robinhood-crypto-chain-memecoin-scams-volume/ - Y Combinator「Misprint」企業ページ
https://www.ycombinator.com/companies/misprint
※ 本稿の数値は、各出典の公表値をそのまま引用しています。SAYA Terminal の自社計測値は含みません。※ 本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。